In Side The Gate:CHRONICLE15

1. 電脳暦

時代は電脳暦(VC)へと更新された。

人類の生活圏は地球に留まらず、その周囲、月にまで及んでいる。
これらを総称して地球圏と呼ぶ。
火星以遠の惑星への進出も試みられてはいるが、芳しいものではない。

人々は自らの可能性の限界に屈し、意識的にせよ無意識的にせよ、有限の世界に生きる運命を受け容れていた。

枠組みとしての旧来の国家は機能不全に陥り、解体が進む一方で、企業国家が台頭している。それは明確な国境を持たず、ネットワークの接続と遮断が演出する人々の動態によって逐一マスパワーを変動させる、実体を持たない国家だった。
人々はパーソナルな利便性への依存に馴れ、無自覚のまま、その代償として潜在する孤独に翻弄されている。共有しうる価値観や理念、あるいはその核たるものを見失い、またあっさりと手放して乗り換えていく。一瞬、一瞬の情動に駆り立てられ、ネットワーク内を流動する彼らの偏在こそが、企業国家の力の源泉だった。
このような流れの中、電脳暦の社会ではほとんどの物事が商業ベースで是非を判断、実行されるようになり、汎世界的経済相互依存システムが確立していく。
人々はそれなりの安楽な生活を保証されており、肉体的負担の大きい労働は、すべて機械や使役生物(人工素体等を含む)が代行するようになった。だが、それでいて彼らの日常生活の水準や本質は、それまでとさして変わらない状況にあり、ヒエラルキーのレイヤーが無数に存在している。
ひとつの極致として、電脳暦草創期に伝説的成功を収めた幾ばくかの家系や人々、あるいはシステムの中には、ある種の超法規的特権階級オーバーロード(Overload)に属するものがある。彼らは企業国家の有力株主であり、それは大抵の場合複数にまたがっていたので、メタ国家的行動を可能としていた。彼らが時折見せる気まぐれな振る舞いは、しばしば企業国家の利害と対立して様々なトラブルを生み出し、時に電脳暦の社会を揺るがす事件へと発展する。

※電脳暦は16進数を使用する。すなわち各位は、0~9、それ以降はa~fをもって表記する。

2. 限定戦争

爛熟と停滞に淀む社会は、戦争放棄の建前とは裏腹に、限定戦争という危険な玩具を生み出した。この特異なシステムが持つ様々な側面、たとえば経済活性化、文化的刺激、政治的パフォーマンス、果ては単なる慰みもの、といった要素が称揚される一方、その負の側面について省みられることはなかった。
限定戦争を開催するにあたっては、国際戦争公司などの興業者が管理する専用地が用いられ、実際の戦闘はDNAなどの専門組織が請け負う。そこでは、いたずらに勝利を追求することは評価につながらず、祝祭としての娯楽性が求められた。人は死を前にして際立つ生をもってのみ、これを認識する。限定戦争が、ビジュアル・エンターテインメント・ビジネスとしてその立ち位置を確立するのは、時代の必然だった。
人々は、モニター越しの戦争を傍観する。ガジェットと化したプロパガンダや理念を謳い、スキャンダラスな煽動に打ち興じる。あるいは単に破壊と殺戮への渇きを癒し、一瞬の昂ぶりのなかに、命を錯覚する。

繁栄を極めていても、無策のまま放置すれば市場はやがて疲弊する。人々の心はうつろい易い。限定戦争が慰みものとして興行される特質をもつ以上、流動性に翻弄されるのは宿命だった。特に、効率的戦闘に最適化した兵器は歓迎されなくなり、「人々の戦い」というダイナミズムを十二分に表現しうる「ツール」としての存在感が強く求められた。
このような背景のもと、地球圏有数の巨大企業国家ダイナテック&ノヴァ社(DN社)は、電脳暦にふさわしい新たな兵器のコンセプトを模索していた。彼らは、長年にわたる地道なマーケティング調査とその分析をもとに、電脳暦(VC)70年代後半、XMUプロジェクトを立ち上げる。それは、「巨大人型有人ロボット兵器」の実用化を目的としていた。
当時、限定戦争のショー・ビジネスとしての側面は、数々の奇妙な規制をもたらしていた。戦闘内容のさらなる激しさが求められ、少女型素体を用いる等、下世話なものが登場する一方で、あからさまな流血を伴う過度の残虐性は、倫理規定に抵触するものとして否定されたのである。
もし、完成度の高い人型ロボットによる戦闘が可能となれば、生身の人間によるそれと同等、あるいはそれ以上の迫力を保ちつつ、視覚面での残虐性は希薄となる。特にそれが巨大なものであれば、人々に与えるショック・バリューは相当なものになるだろう。そしてまた有人機であれば、戦う人間同士が織りなすリアルタイムのドラマ性も確保される。巨大人型有人ロボットは、限定戦争の本質にかなう有力な商品となる可能性があった。
残念ながら、XMUプロジェクトは志なかばで頓挫する。当時の技術レベルでは、開発に必要とされる諸問題をクリアすることができなかった。そもそも、体高10メートルを超す巨大ロボットが、二足歩行を伴う人型である必然性はなく、むしろナンセンスでさえある。厳しい批判にさらされた後、プロジェクトは解体され、スタッフは各所に散った。しかし、彼らの試みは無駄ではなかった。VC70年代になされた技術的蓄積は、後の戦闘バーチャロイド開発に活かされることになる。

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