VC84年、DN社は、月面における自社再整備区画79号内にある廃坑を探査中、謎の遺構ムーンゲートを発見した。それは巨大な円筒状の建造物で、技術レベルは人類のそれを超越していた。DN社は極秘裏に発掘調査を開始、やがて遺跡最深部から、Vクリスタル(ムーン・クリスタル)と呼ばれる八面構造の巨大な結晶体を見出す。
調査が進むにつれ、発掘現場に常駐する人々の間に奇妙な症状があらわれるようになった。なんの前兆もなく突然、意識を失ってしまうのだ。発症者は、Vクリスタルの調査に参加している点が共通していた。これは後にバーチャロン現象と呼ばれるようになる。
当時のVクリスタルは、わずかながらその機能を維持しており、人間の脳神経の活動を特異的に感知、これを触媒として活性状態に移行した。標的となった人間は、ゲート・フィールドと呼ばれる特異な場の影響下におかれ、なにがしかの後遺症を患う。通常、それは捕らわれた間の記憶を喪失する程度だったが、悪くすると廃人と化す場合もあった。
だが、例外的な人間もいた。ゲート・フィールド内で精神干渉されても悪影響を受けず、むしろこれと親和するのである。彼らの特質は数値化され、バーチャロン適性(バーチャロン・ポジティブ)と呼ばれるようになった。
ムーンゲート内景 巨大な円筒型をしたムーンゲート遺跡。画面奥行き方向の発光は、ムーン・クリスタルによるもの。遺跡内壁には、シールド・プレートが積層されていた。
その後、Vクリスタルに関しては多くの興味深い知見が得られた。まず、この結晶体は、なんらかの意識に類するものを持っているようだった。また、電脳虚数空間(CIS)への往還を可能とするゲート・フィールド形成機能を有していた。そしてムーンゲートは、Vクリスタルの能力を増幅する施設だった。
太陽系内には、Vクリスタルが遍在しているようだった。また、ムーンゲートと同様の構造を持つ遺跡は他にもあり、かつてはCISを介して相互にリンク、なんらかの転送ネットワークを構成していた形跡があった。この機能をうまく再生、制御することができれば、ゲート間での物質転送等、様々な利用法が実現しうる。DN社の意志決定機関である最高幹部会は、ムーンゲートから得られるオーバーテクノロジー(OT)の一切を秘匿するよう指示した。これを独占、実用化することによって、他の競合勢力に対して優位に立とうとしたのである。
VC86年、彼らはムーンゲート復旧を目的とする研究機関を設立した。後世、0プラントと呼ばれるこの組織には莫大な予算が投入され、日夜精力的な研究が進められた。最新鋭の機材が導入されたのはもちろんのこと、研究者についても、Vクリスタルと相対する関係上、バーチャロン・ポジティブの高い優秀な人材が集められていた。
VC87年、事態は新たな局面を迎える。当時行なわれていた第4次ムーンゲート発掘調査において、特別調査エリアDD-38から巨大人型構造体とおぼしき残骸が発見されたのである。身の丈50mはあろうかというこの遺物は損耗が激しく、辛うじて原型を留めていたのは頭部のみだった。そしてそこには、複製Vクリスタルが組みこまれていた。
BBBユニットと命名されたこの遺物は、極めて興味深い存在だった。過去にこれを作り出した何者かは、Vクリスタルを複製し、また、これを制御することで、CISを自由に往来する技術を実用化していたのである。この特殊な機能を持つがゆえに、BBBユニット、及びそれを頭部とした過去の人型構造体はバーチャロイドと呼ばれるようになった。
バーチャロイドそのものの復活は困難だったが、頭部に限定すれば見こみがあった。成功すれば、CISへの突入(コンバート)を実現する大きな足がかりとなる。そこでVC88年、DN社最高幹部会は、BBBユニット(バーチャロイド)の復元作業を最重要課題に指定し、Vプロジェクト(第1次Vプロジェクト)を立ち上げた。
プロジェクトの中枢を担った 0プラントは、手始めにVコンバータを開発する。これは、Vディスクと呼ばれる特殊メディアを組みこんだボックス・フレームで、BBBユニットの簡易版であると同時に、復元の際には補機として機能する役割も持っていた。Vディスクには、ムーンゲート内で採取されたクリスタル質がコーティングされている。このため、Vクリスタルに類似する機能を有し、小規模ながらゲート・フィールドを形成した。そして、フィールド内にいる人間の脳神経活動にフォーカスして、バーチャロン現象を引き起こす。これを放置すれば危険なので、Vコンバータを制御するためのOSが必要となり、MSBS(Mind Shift Battle System)に白羽の矢が立った。
MSBSは、かつてXMUプロジェクトで開発された、精神制御指向の戦闘兵器用OSである。開発に関わったスタッフが0プラントに在籍していたことも幸いし、転用はスムーズに進んだ。
VC8f年、バーチャロイドの第1回起動実験が行なわれた。一見、万全の準備のもと施行されたかに見えたこの試みは、しかし無惨な失敗に終わる。BBBユニットに内蔵された複製Vクリスタルが暴走し、ユニット外部にゲート・フィールドが形成されたのである。0プラントは施設の2/3をCISへと転送され、多くの優秀な科学者が巻き添えになった。
実験はその後も続けられたが、めぼしい成果をあげることはできなかった。VC91年に行なわれた第3回起動実験も失敗に終わると、最高幹部会はVプロジェクトの中止を決定した。ただしVコンバータに関しては、その完成度を高める作業の必要性が認められ、業務継続が許可された。
Vコンバータ Vコンバータ(背後の青色部分)は、Vディスクを組みこんだボックス・フレームである。これはBBBユニットの簡易版であると同時に、復元の際には補機としても機能した。