In Side The Gate:CHRONICLE15

10. プラジナー博士の遺したもの

VC90年代なかば、プラジナー博士は3柱の至高のVRを創出する。CIS自由往還システムを搭載したこれらの機体は、各々VR-017、VR-014、VR-011と型番をうたれ、同時に「アイス・ドール/エンジェラン」、「ファイユーヴ/フェイ・イェン」、「アプリコット・ジャム/ガラヤカ」という愛称を与えられた。有人制御を伴わず、MSBSさえ非実装のまま自律的な行動を可能とする彼女たちは、各々17歳、14歳、11歳の少女に相当する固有の人格を宿していた。また、実装する超高効率Vコンバータによって、身体データを自由に変えることができた。このため、CISを往来するだけでなく、人間とVRという二相間の可逆的変換能力をも併せ持った。実際に彼女たちが人の姿になると、身長体重はもちろんのこと、生理的な細目に至るまで、最早人間との区別は不可能だった。
それは事実上、真の意味でのVR、すなわちオリジナルVRの誕生を意味した。ムーンゲートとBBBユニットの発見以来、多大な犠牲をはらいながら果たせずにいた宿願の成就、人智のなしうる最善の解答である。


VR-014 ファイユーヴ/フェイ・イェン

事の大きさに慌てたDN社最高幹部会は、VC97年、0プラントに調査の手を伸ばす。しかし、すでにプラジナー博士は失踪、また3柱のVRも姿を消していた。このうちアイス・ドールについては、VC9c年、火星よりさらに以遠のアステロイド帯で、機能停止したまま漂流しているところを発見、回収された。またアプリコット・ジャムについては、しばらくの間、実在しないものと考えられていた。だが、残るファイユーヴは活発に行動した。ある時は人間となって巷間をうろつき、歌い舞い、またある時はVRとなってCISと実空間との間を行き来した。
DN社は困惑する。VRの大々的販売を目論むVプロジェクトとは無関係に、VRが、しかも規格外の機体が、人目につく形で勝手に振る舞うのは問題だった。そもそもプラジナー博士は、いかにしてこのようなものを開発しえたのか? ファイユーヴは、DN社にとって貴重な資料、そしてそれ以上の意味と価値を併せ持ち、ゆえに追われる身となる。
しかし、彼女の性格は束縛を嫌う移り気なもので御しがたく、通常のやり方が通用しなかった。実力行使に訴えようとしても、VR形態時、胸部から発せられるハート型のビーム照射「エモーショナル・アタック」が脅威となった。そのハート型光輪は、通常の意味での武装ではなかったが、人間に多幸感のある衝撃を与えて行動意欲を減退させ、MSBSを機能不全に陥れる。効果は数時間後に消え、深刻な副作用をもたらすこともなかったが、ファイユーヴが追手から逃走する時間を稼ぐには十分だった。
進展しない状況にDN社は苛立ち、VC99年以降、徐々に活動が過激になる。任務を請け負うDNAは、虎の子のVR戦隊を躊躇なく用いるようになり、ついにVC9a年、大規模な捕獲作戦を実行した。Vプロジェクト統括責任者であるアンベルⅣの指揮下、精鋭の特殊重戦闘VR大隊を投入したのである。新開発のマシンチャイルドをパイロットとして登用したこの作戦は、確かに一時ファイユーヴを追い詰めはしたものの、結局は失敗に終わる。
最高幹部会は、プラジナー博士の置き土産に頭を抱えた。そしてなかば八つ当りのように、すべての責任を0プラントに押しつけ、これを解体した。


VR-017 アイス・ドール/エンジェラン

博士は何を企図してオリジナルVRを開発し、また何を思って失踪したのか。すべては謎の帳に包まれている。彼が、自身の知的好奇心を満たすだけのために、CIS自由往還システムを創り出したとは考えにくい。その背景には、彼の所属していた0プラントにおけるVクリスタル研究の暴走、その過程で拡散した負の遺産シャドウに対する贖罪の意図があったのかもしれない。
シャドウは、その発現の際、Vクリスタル(あるいはVコンバータ)を介してCISに固有の波動を放つことが知られている。博士は、異変を事前に察知するため、かつて坑道で飼われていたカナリアのような役割を、ファイユーヴに託そうとした可能性がある。3柱のオリジナルVRの中でも、際立ってCIS往還能力の高い彼女は、幾多の捕獲作戦を切り抜ける際、自身が備える高感度センサーの能力を巧みに使った。これは、シャドウ探知機能を流用したものと考えられる。
また自らを「影の番人」と称し、CIS内を巡航することが務めであるとほのめかす彼女は、VCa0年代になると、対シャドウ戦専門組織の白虹騎士団と緩やかな連携を保ち、彼らの活動を側面支援するようになった。
なお、第1世代型VRとしてDNAが制式採用したSRV-14は、ファイユーヴをベースに複製が試みられたものである。彼女自身は自らを「フェイ・イェン」と名乗る場合が多く、このためレプリカ機体もその名を継承している。ただし、オリジナルが有するCIS往還システムは装備されていない。


VR-011 アプリコット・ジャム/ガラヤカ

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