In Side The Gate:CHRONICLE15

14. ムーンゲート覚醒

第4プラントに進出したDNAは、活性化したアース・クリスタル(及び、ヤガランデの幻影)によって壊滅した。その際、結晶体からは電子的絶叫とでも呼ぶべき奇妙な波動が放たれ、ムーン・クリスタルとの間に一時的な接続が生じた。直後、ムーンゲートが覚醒し、ゲート・フィールドを展開して周囲を飲みこんでいった。
VCa0年1月1日0時0分0秒、地球圏は未曾有の危機に直面する。覚醒したムーンゲートが、太陽砲なる重力制御シーケンスを起動したのである。放置すれば、地球そのものが一種の砲弾として太陽系外に射出されてしまう。
地球圏は騒然となり、各地ではパニックを伴う暴動が多発する。DN社は無数の批判や告発の矢面に立たされ、情報処理のキャパシティは飽和した。
ところが、最初の衝撃がピークを過ぎると、事態は急変する。人々が、巨大なビジネスチャンスの到来に気づいたのだ。
それは、この時代を支配するメンタリティゆえの直感だったのかもしれない。彼らは生きることに麻痺していた。迫りくる目新しい危機を前にして、それに怯えることも含めて、人生をリアルに消費できる好機と捉えたのである。つまりそこには需要があり、商機がある。あらゆる産業が、久しぶりに訪れた真実味のある終末的状況に刺激され、著しく活性化した。人々は、太陽砲の脅威を告げる情報の詳細については、特に強い関心を抱いていなかった。むしろ彼らは、「ドラマ」を求めていた。シンプルな筋書きの、わかりやすい(消費しやすい)ドラマを。
「絶体絶命の状況に陥った人類を救うべく、選ばれた者が立ち上がる。そして滅亡は回避される(かもしれない)」
人々はこの筋書きに便乗すべく狂奔し、翻弄された。量子全裸系終末対応複合保険、絶体絶命超克軟式装甲材、終戦幻想風対戦型電子書籍、脳死安定クローン宅配、略奪系精子瞬速オーダーメイド……名称だけでは実態のわからない商品、新たな市場の創出が謳われ、数分、数秒毎に無数の企業が興り、同時にそれ以上の企業が倒れた。

15. オペレーション・ムーンゲート

事態は、DN社にとって正しく悪夢だった。しかし、危機に瀕した彼らには、「太陽砲の起動阻止=ムーン・クリスタルの破壊」というイベント、いわばリアルタイム・ドキュメンタリーへの「出演」を条件に、様々な出資や救済の申し出が殺到した。もちろん、ムーン・クリスタルの破壊が可能か否か、あるいは仮にそれができたとして、すでに起動している太陽砲のシーケンスが停止するのかどうか、議論の余地は大いにある。だが、ヒステリックな混沌の渦に巻きこまれたDN社に抗う術はなく、彼らは道化役を受けいれざるをえなかった。茶番劇は、なかば戯れのように「オペレーション・ムーンゲート(OMG)」と命名される。
強度は不安定だったものの、ムーンゲートはゲート・フィールドを展開しており、バーチャロン現象を警戒する必要があった。このため、唯一利用可能な有人兵器として、VRが投入されることになる。
当時、月に駐屯するDNAは、約120機のVRを保有していた。しかし、ムーンゲート覚醒時、多くの機体がVクリスタルによるシステム汚染を受けてしまう。汚染機体は人間側の介入を遮断して自律的な行動をとり、遺跡周辺に防御ポイントを形成していった。やむなくDNAは、月周回軌道上のドック艦に収納されていた約30機のVRを徴用する。
これらの機体はDN社開発管理局所属のもので、各部の仕様がDNAのものとは異なっていた。特にMSBSに関しては、全機種ともver3系がインストールされていた(DNAはver2系を使用)。ver3系は、VRの遠隔制御を目的としており、しかも徴用機体が装備するバージョンは、試験運用中のVRシミュレータ・ゲーム「バーチャロン」専用にカスタマイズされていた。
DNAは困惑する。VRパイロットが任務を遂行する際、彼らは一般人に混じってゲームをプレイしなければならない。人類の存亡がかかった状況において、これはいささか好ましからざる事態といえた。実際、パイロットの中には、就労拒否する者さえいたという。しかし、30機のVRのMSBSを換装している時間的余裕はなかった。結局、回線整備等、最低限の支援策をもって作戦は強行される。そしてこの様子は逐一、全世界に中継されることになった。

OMGはハプニングが続発する。特に、大型移動要塞ジグラットの出現は誤算だった。突入部隊は、巨大な敵との戦闘に想定外の時間を費やし、このため、遺跡最深部の予定ポイントに到達できなかった。やむなく残余エネルギーのすべてをVRの主兵装に回し、遠距離射撃によるムーン・クリスタルの破壊を試みた。
直後、中継を見守る人々は息を呑んだ。クリスタルが、強烈な発光を伴う高エネルギーの放出を行なったのである。巻きこまれた突入部隊のVRは消息を絶ち、その後、大破した状態で月の周回軌道上を漂流した(なんらかの形で転送されたものらしい)。一方、放たれたエネルギーの奔流は、太陽系内外のあらゆる方向に散っていった。それは、遍在するVクリスタル、あるいはそれと同等の機能をもつネットワーク・ターミナルに向けられたものだった。いつ、何者が何のために設営したのか、依然として不明ではあったが、Vクリスタルを核とするネットワーク・システムは確かに存在し、機能を維持していたのである。
表向き、OMGは一応の成功を収めた。太陽砲の起動シーケンスは停止し、DN社は危機を切り抜けた。ただし、鳴り物入りで中継されたVRの作戦行動は、小部隊かつ散発的な戦闘に終始し、期待された内容には程遠かった。むしろ、支作戦で生起した特殊重戦闘VR大隊による汚染機体との戦闘の方が、熾烈を極める状況だったといわれている。ただしこちらは、一般向けに中継されなかった。
そもそも太陽砲の停止は、本当にDNAの活躍によるものだったのか、疑問を抱く向きも少なくない。OMG直後は、突入部隊のVRによる決死的活動がもたらした成果である旨、告知や報道がなされたが、その後公表された情報とは様々な点で齟齬があった。

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