かつてVプロジェクトの担い手として隆盛を極めたDNAも、FR-08が推進する大規模なリストラの波から逃れることはできなかった。存続こそ認められたものの、これまでのような支援は得られず、独立採算制を求められたのである。彼らは限定戦争代行企業、要は単なる傭兵集団への転向を余儀なくされる。それでもOMG以降、地球圏における唯一のVR保有組織として脚光を浴びていたから、前途に期待を抱く向きもあった。ところが意外なことに、DNA内部ではVRに対する認識にまとまりがなく、運用方法も定まっていなかった。このため、鳴り物入りで限定戦争市場に参入したにも関わらず、現場ではVR本来の能力を発揮できず、いたずらに評判を落としてしまう。
VCa2年、事態は急変した。演習中のDNAが、RNAと名乗る一隊と交戦状態に突入、壊滅的打撃を被ったのである。RNAは、アファームド系、フェイ・イェン系と思しき新型VR、後に第2世代型と呼ばれる一連の機種をもって、DNA側を圧倒した。また、FR-08内でも知る者の少なかったタングラムの存在を暴露する等、戦闘だけに留まらない多面的な活動を展開した。
彼らが何者で、どのようにしてVRを調達しえたのか、詳細を知る者はいなかった。しかし様々な憶測が飛び交う中、徐々に彼らのパフォーマンスを面白がる風潮があらわれる。その際、FR-08は悪役に見立てられることが多かった。
DN社の瓦解によって、最大の恩恵に浴したのがFR-08であるというのは、周知の事実だった。「OMGをはじめとする一連の事件は、トリストラム・リフォーが陰で糸を引いていた結果ではないのか」明確な根拠はなかったにせよ、この手の話には、ある種の説得力があった。風評を育む流れは、RNAの出現以降エスカレートし、やがて「謀事を隠蔽する巨大企業国家(FR-08)」対「それを暴こうとする義賊集団(RNA)」というステレオタイプな構図がでっち上げられるに至る。
トリストラム・リフォーは世論の流れに不快感を抱き、RNAの正体を突き止めるべく大規模な捜査活動に着手した。またDNAに対しては、新型VRの開発を含む様々な援助を行なうことを決意する。こうして、限定戦争界にDNA対RNAという対立の構図が生まれ、以後、数々の紛争が興行化されるようになった。
RNAの実態が明らかになるのは数年後だが、出現当時から、単なる軍事組織とは趣を異にする集団であることは明白だった。確かにある種のパフォーマンス、及び活動資金を得る術として、彼らはVRによる限定戦争に依存していたし、積極的でもあった。だがそれは、彼らの多様な活動のうちの1つに過ぎなかった。
OMGからDN社の崩壊、そしてFR-08の台頭へと至る混乱の中、損害を被った人々や企業国家は、枚挙に暇がない。VCa0年以降、彼らは緩やかなアライアンスを形成し、多面的かつ広範な抗議や告発を展開する。RNAとは、こういった反主流の雑多な団体や企業国家の存在を背景に、その支援を受けて活動する集団だった。
彼らの中には、かつてVプロジェクトに携わっていた者も多く、その中断を恨む気風があった。限定戦争におけるVRの有効性を立証すべく、その運用に熱心だったのは、ゆえなきことではない。将来的に、彼らは自身のイニシアチブのもと、Vプロジェクトを再興しようとする意図さえもっていた。
RNAが擁する第2世代型VR 出現当時、RNA側の第2世代型VRはDNA側の旧型機体を圧倒した。
トリストラム・リフォーは、木星以遠の外惑星系と地球圏を結ぶ、新しい物流システムを構築することに意欲的だった。外惑星系で産出する資源を地球圏に輸送する際、当時主流だったインペリアル・ラインが、宙航船舶依存の旧態依然としたものだったので、改善の余地があると考えたのである。ロジスティックス業界は、既得権益が複雑に絡みあう伏魔殿となって久しく、新規参入を拒み続けていたが、リフォーには腹案があった。Vクリスタルを核とするネットワークの転送機能を応用することで、まったく新しいシステムを構築するのだ。彼は、これこそがOT業界興隆の起爆剤になると確信、ロジスティックスV計画と命名して積極的に取り組む姿勢をみせた。
計画は、ムーン・クリスタルとアース・クリスタルの2極間転送実験からスタートする。双方のVクリスタルの管理については、月面側がDU-01、地球側がTSCの担当になった。後者については、ヤガランデの惨劇の再発を未然に防ぐため、幻像結晶拘束体ブラットスの構築を主軸とする対策が進められた。
極秘裏に進められた予備実験は順調に推移し、しかし中途でRNA側に情報が漏洩したためアクシデントが発生した。VCa2年、旧オーストラリア大陸の残滓、TAI(テラ・アウストラリス・インコグニタ)で開催されていた限定戦争興行サンド・サイズ戦役において、実験システムを盗用する事件が起きたのである。RNAの造反者と、DNA側の一部の者(SHBVD所属)が結託し、VRの強制転送、すなわち定位リバース・コンバートが、衆人環視のもと実行された。月面背側からTAIへと、瞬時に遷移して実体化するVRの衝撃的な映像が流れ、ピンポイント転送を可能とする高精度システムの存在が暴露されたのである。ロジスティックスV計画は発表前に公の知るところとなり、大きなダメージを被った。特に、VRの定位リバース・コンバートが成功したインパクトは計り知れず、インペリアル・ラインをはじめとする、流通業者主体の企業国家群からは、非難や反発が続出した。
一方、DD-05で開発された第2世代型VR HBV-502ライデンは華々しく初陣を飾り、評判になった。
定位リバース・コンバートしたVR DD-05が開発した第2世代型VRライデンは、月面背側からTAIへの定位リバース・コンバートを成功させた。