In Side The Gate:CHRONICLE15

20. 顕在化する対立

やがて、当初絶対的と思われていたFR-08体制に、綻びが見られるようになる。それは、傘下のプラントの足並みの乱れとして顕在した。混迷する地球圏において自らの存続を図る彼らは、現行の体制に不安を抱き、新たな道を模索し始めたのである。その際、彼らが選択したのは、DN社時代に培った技術的基盤を活かし、限定戦争市場にVRを供給する道だった。
たとえば、いちはやく第2世代型VRを実用化したDD-05は、独自路線を指向する。自らの開発したHBV-502ライデンを、DNA、RNA双方に売りこむべく画策したのだ。しかし、これは手際の悪さもあって、FR-08による妨害を受ける。策謀に翻弄され、一連の限定戦争で本拠地を戦域指定されたDD-05は、廃絶に追いこまれてしまった。
TV-02は、VR開発に必要とされる各種ライセンスを巡り、FR-08と対立した。彼らは法廷闘争に持ちこみ、暫定的な勝利をもぎとる。VCa3年、彼らが開発した新型機体RVR-68ドルドレイは、公然とRNAに販売された。
これがSM-06の場合になると、さらに状況は過激になる。本来FR-08側に与していたこのプラントは、VCa3年、アイザーマン博士とマシュー大佐によるクーデター以降、態度を一変させた。彼らはFR-08体制を頭から無視し、勝手気ままな行動を繰り返した。特に、マシュー大佐の率いる宙航艦隊がDU-01を急襲し、保管されていた大量のムーン・クリスタル質を強奪した事件は、注目を浴びる。放埒な振る舞いをFR-08に咎められ、一時窮地に陥ったSM-06は、TSCの支援を受けることで危機を回避した。
こうして、VCa3年後半からa4年初頭にかけて、旧DN社傘下にあった巨大プラント群は、2派に分かれて対峙するようになった。FR-08に対抗する勢力の領袖は、TSCがつとめた。当初彼らは、FR-08が推進する新たな体制づくりに同調し、ロジスティックスV計画にも率先して協力していた。しかし、徐々に両者の間の溝は深まり、それは後に「エンジェランの略奪」と呼ばれる事件によって、決定的なものになった。
FR-08派とTSC派の両陣営は、DNAとRNAの対立構図にも相乗りし、各々FR-08/DNA、TSC/RNAという形でタッグを組み、限定戦争の場で鎬を削った。

21. アイザーマン博士

かつてDN社が独占していたOT技術も、時がたつにつれて、次第に流出、拡散していった。すると、既存のプラントやプロジェクト以外でも、突出した成果が生まれる事例が散見されるようになる。大抵の場合、成功を手にした者は、それをもとに一旗あげるべく、起業や売り込みに奔走した。それは報われて実を結んだり、挫折したり、悲喜こもごもの結果を生み出し、いずれにせよ、時代の波に飲みこまれて消えていくのが常だった。しかし、時には巨大な才能が常軌を逸した業績を成し遂げ、社会を大きく揺るがし、歴史に名を留めることもある。そして、アイザーマン博士にその資格があることを疑うものは少ない。
博士の経歴は公開されているものの、あらゆる階層においてリアルタイムに書き換えられており、特にVC98年以前については、まったく信頼に値しない。一般には、VC90年代、おそらく0プラント解体時に野に下った研究スタッフの1人ではないかと推測されている。並立三躯連環体として活動する博士は、性別も人格も言動も安定せず、極めてエキセントリックな人物だったが、ことVコンバータの工学分野においては、他の追随を許さない才能と実績があった。
VC9d年、博士は火星においてマーズ・クリスタルの結晶鉱滓ブラックベリーを発見、調査過程において重要なアイデアを得た。そしてVCa0年、SM-06で、開発者としての活動をスタートさせる。
ここで彼は、第1世代型VRであるバイパーをテストベッドに、数種の新型機体案を検討した。その際、遠隔地への迅速な投入を可能にする機能性を重視し、2つのテーマを設定する。1つは、高速巡航用の航空機への可変機構。もう1つは、長距離遷移を実現する、VR単体での定位リバース・コンバートだった。
当時は、FR-08からVRの開発禁止を通告された時期だったが、博士はこれを無視した。そしてDNAのマシュー大佐と接触、VRの膨大な実戦データを入手し、これをもとに可変機構を組みこんだ機体を完成させる。また、定位リバース・コンバートについては、ブラックベリーの研究中に得た着想をもとに、独創的な手法を編み出した。博士は、異なるVクリスタル質(たとえばアース・クリスタル由来、マーズ・クリスタル由来、等)による多層ディスクを焼成、これを搭載するハイブリッドVコンバータをもって、VR単体での定位リバース・コンバートを実現したのである。これは、FR-08が模索したロジスティックスV計画とはまったく異なる画期的なアプローチで、Vクリスタルの直接管理を必要としない点が実用的だった。
VCa3年、アイザーマン博士は研究の自由を確保するため、FR-08体制からの離脱を望み、マシュー大佐と共にSM-06を掌握する。また、多層ディスク生産用の資材を確保すべく、大佐の率いる艦隊と共にDU-01を急襲、保管されていた大量のムーン・クリスタル質を強奪した。
博士の開発した定位リバース・コンバートが一般化するのは、VCa6年以降、第3世代型VRが普及してからのことだが、この技術がOT業界に与えた衝撃は計り知れない。ロジスティックスV計画に至っては、その意義が問われ、存続の危機に瀕するのである。

アイザーマン博士
並立三躯連環体のアイザーマン博士。
個々の肉体は、左から順に各々Y、Z、Rのイニシャルを持つ。左右の2体(Y、R)は雌体であるが、中央のZ体は、デフォルトを中性とする雌雄可変体。

相互リンクにおいて雌体(Y、R)の比重が大きくなると、可変体Zは女性の形をとることが多くなるが、決してその限りではなく、しばしば男性形へも変態する。雌雄が混在することもある。また、容姿は変化しないまま、言動面での性別が切り替わることもあり、特に何かに夢中になって負荷が高くなると、外見と内面の乖離が激しくなる。そもそも連環体の場合、個々の肉体に基づくパーソナリティは重視されない。博士を例にとれば、3体の相互リンクによる並列配置のもと、関係性としての主従の切り替えを高速循環、シーケンス上に現れる浮動的な表徴をもってテンポラリーの人格としている。このため、言動も性向も興味の対象も常に変動し、多重人格的破綻をきたしているようにさえみえる。なお、対人コミュニケーション、特に対話が求められる場合は、便宜上スポークスマン設定された1体(主にZ体)が担当する。

YZRの3体は、通常、精神的に連接した形で活動するが、まれに分離して個別に行動することもある。同時期に別々の場所で、同じくアイザーマン博士を名乗る人物が相互に矛盾した言動をとる例が数多く知られているが、大抵の場合、それは分離状態の時のものである。

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