In Side The Gate:CHRONICLE15

22. MSBSver5

限定戦争界を中心にRNAの挑発は衰えることなく、これに影響される形で、FR-08内の空気にも徐々に変化の兆しが現れる。
当初、盟主トリストラム・リフォーの周囲は、0プラント派の人材で固められていた。彼らは、VC90年代に消滅した、0プラントからの流出者である。DN社の瓦解後、地球圏におけるFR-08体制の構築に尽力した彼らは、リフォーの信頼を得ていた。
また彼らは、時空因果律制御機構タングラムの必要性を強く主張した。完成への道が困難であることを認めつつも、これこそが、遍在するVクリスタル群を制御する鍵になると主張したのである。ロジスティックスV計画の実現を目指すリフォーにとって、結晶体の確実な制御法は喉から手が出るほど欲しいものであり、両者の利害は一致していた。
だが、限定戦争の現場で生まれたDNA対RNAという構図は、VRを用いるアプローチが市場に対して有効であることを実証する。新参者である0プラント派を快く思わないFR-08内の在来勢力は、この流れを利用した。密かに国際戦争公司と連携し、RNAとの戦力均衡を実現すべく、DNAに対して便宜をはかった。彼らは、MV-03を主体とするサポート体制を構築し、ユニット・スケルトン・システムを用いた新型VR、ボック・シリーズの大量導入を推進する。さらに、各地でVRによる限定戦争興行のお膳立てを行ない、一般への認知を高めていった。
やがて彼らは、0プラント派が主導するタングラム関連事業を公然と批判、先の見えないものに拘泥するより、今すでに手元にあるVRを活用して利益を確保すべきである、と主張しはじめた。
トリストラム・リフォー自身は依然としてロジスティックスV計画に執着していたが、計画遅延に伴い、新たな資金繰りが必要になっていた。そこで彼は、VR関連事業を支持する人々の声を聞き入れ、限定戦争市場への本格参入を決意する。その際、市場を掌握する手段として、VコンバータOSの新規格MSBSver5の開発を指示した。当時のOSは、DNA側とRNA側のものとで仕様が異なり、限定戦争を主催する国際戦争公司は、規格の統一を求めていたのである。
一連の動きに対して0プラント派は強く反発したが、リフォーはこれを押し切り、結果、社内の力関係は大きく変動する。そしてOT産業の行く末を巡ってさらなる対立が進む中、VCa4年、何者かによって彼は抹消暗殺されてしまう。

23. 時空因果律制御機構タングラム

FR-08内の対立を激化させる要因ともなった時空因果律制御機構タングラムについては、それが第9プラントで開発されたということ以外、詳細を知る者はほとんどいなかった。
VC84年の発見以来、継続的に行なわれたムーンゲート発掘調査は、Vクリスタルにある種の転送機能が備わっていることを明らかにした。しかし、これは単に物体を地点AからBへと移送する、という類のものではなく、任意の事象αを別事象βへとすげ替えることを意味した。
この世界は決して唯一無二なものではなく、並行して存在する無数の世界の中の1つに過ぎない。それらは相互に干渉し、事象を規定する。1人の人間は決して1人ではなく、無数の並行宇宙にある無数の個人としての1人であり、各々の宇宙において固有の流れの中に存在する。
Vクリスタルは、この並行宇宙のありように強く干渉する。その活性状態が閾値まで高まると、CISにおいて異なる宇宙を交叉、事象の組み換えを引き起こす。これこそ、Vクリスタル最大の特徴とも言える事象転送機能だった。バーチャロン現象や、CISへと開口するゲート・フィールドは、この機能の副産物といっても過言ではない。
Vクリスタル制御の精度を上げて、事象転送機能を意のままに操ることができれば、ある世界で起きている特定の事象を、別の並行世界で起きているものとすげ替えることが、理論上可能となる。つまり、望むままに運命を調律することができる。それは、自らの可能性の限界を受容し、諦念と肩寄せあうようにして生きてきた人類にとって、望外の福音だった。そして、この福音を現実のものとするための手段こそ、時空因果律制御機構タングラムだった。
VC90年代、タングラムは、プラジナー博士をはじめとする0プラントのスタッフが立案した。当時、DN社内はVプロジェクトを中心に動いており、それ以外の計画が認可される可能性は低かったが、アンベルⅣはこれを支持した。彼は、Vクリスタルの真の価値に気づいていたのである。計画の実行はトリストラム・リフォーに託され、彼は専用施設として第9プラントを設立、全額出資してイニシアチブを掌握した。そして、タングラムそのものの開発は、当時10歳にも満たない少女、リリン・プラジナーに委ねられた。後に彼女は、父親であるプラジナー博士失踪の責を問われ、プラント内に軟禁されることになる。

24. OMGの真実

かつてVプロジェクトは、アンベルⅣとトリストラム・リフォーの緊密な協力体制のもと、順調に進んでいた。しかし、立場も志向性も異なる2人の蜜月は長続きすることなく、ある時期を境にして関係は急速に悪化する。周囲を巻きこむ一連の政治的暗闘を経た後、VC9f年からa0年の狭間、アンベルⅣは姿をくらました。そしてこの間、確実に1回、タングラムが起動した。
それが何者の手によるものなのかは不明だったが、未完成のまま強引な起動を行なったため、タングラムは機能不全を起こす。接続されていたDN社のネットワークには、無数の並行宇宙の雑多な情報が怒濤のように流れこんだ。結果、社内の管理システムは自己矛盾を起こして崩壊、災禍はアース・クリスタル、そしてムーンゲートの覚醒へと続いていく。その後、騒動が拡大してOMGを引き起こすわけだが、DN社にとってみれば、外部の喧騒よりもタングラムを喪失する方が打撃だった。そこで、一計を案じたトリストラム・リフォーは最高幹部会を説得、OMGの決行を促す。彼はその狂騒を目くらましに利用し、危険な状態にあったタングラムの復旧に取り組んだ。
VCa0年、喧伝されたムーンゲートの覚醒と太陽砲の起動は、虚構ではなかったにせよ、DN社にとっての真のミッションは、別のところにあったことになる。

25. リリン・プラジナーとアンベルⅣ

トリストラム・リフォーの死後、FR-08で主流派となった人々は、Vプロジェクト復活に向けて動きだす。彼らはロジスティックスV計画を葬り、0プラント派を放逐した。さらにRNAの存在を追認し、DNA対RNAという構図のもと、国際戦争公司と提携して各地で大規模なVRのプロモーション興行を展開した。一連の活動は順調だったが、程なく、巨大な利権を巡って内部抗争が勃発する。
騒動はしばらく続くものと思われたが、意外な展開が待ったをかけた。失踪中のアンベルⅣが舞い戻ってきたのだ。VCa4年、彼は前触れもなくTSCに姿を現し、FR-08に揺さぶりをかけるべく矢継ぎ早に行動した。「OMGは茶番であった」と嘯いて内幕を暴露、RNAに肩入れし、2つのVR開発プラント、TV-02、SM-06を自陣営に引きこんだ。返す刀で、DU-01、MV-03といった、FR-08側の有力プラントにも秋波を送る。その巧みな立ち回りによって、FR-08陣営に属していたものの多くがTSC側に靡いた。
事ここに至って、ようやくFR-08内でも危機感が芽生え、難局を乗り切るべく諸々動きがあった。その一環として、彼らは新たな盟主を擁立する。当時15歳だったリリン・プラジナーを、軟禁中の第9プラントから招聘したのだ。
少女は、ネゴシエイターとして有能だった。自ら動いて腹心の部下を周囲に集める一方、迅速に反対勢力を宥和、または排除して組織の健全化に努めた。
彼女の当面の目的は、主流派の望むVプロジェクトの再興だったが、現状ではTSC陣営に分がある。形勢を立て直すべく、子飼いのRP-07はもちろんのこと、離反が危惧されたDU-01やMV-03に対しては説得に努め、TSC陣営に対抗しうるアライアンスの構築に注力した。さらに、トリストラム・リフォー体制からの変化、すなわち限定戦争市場重視の姿勢をアピールするため、VCa4年後半、当時としては最大規模の戦闘興行クレプスキュール戦役を主催した。
数ヶ月に及ぶ戦いの間、FR-08は傘下のRP-07と共にDNAを全面サポートする。そして、新型機MBV-707テムジンを投入するなど、矢継ぎ早の施策を講じ、これが功を奏した。FR-08/DNA陣営は、徐々にTSC/RNA側を圧倒する。最終的に勝利を得たリリン・プラジナーは、アンベルⅣを交渉の場に引きずり出した。
以後、両者は虚々実々の駆け引きを繰り広げるが、その際、手のうちには各々切り札を持っていた。アンベルⅣの場合、それは幻像結晶拘束体ブラットスだったし、プラジナーの方は、時空因果律制御機構タングラムだった。


リリン・プラジナー

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